「・・・何だと。明日の誕生日に間に合わなかったというのか?」
「いいえ、間に合ってはいます」
「では出来ているのだろう」
「そうですネェ。出来たといえば出来ているし、まだといえばまだです」
「どういう事だ。儂をからかっているのか」
のらりくらりと質問をかわすスマイルを横目に、俺の頭は混乱していた。
まさかこの人、本当に作らなかったのか?
いや、そんな筈は無いだろう。
しかし――
あーあ、どうも気が乗らない。投げ出しちゃおうかなー・・
あの時のスマイルの言葉が、そうしても脳裏を掠める。
スマイルの事を完全に信じることが出来ない自分自身に、強い怒りを感じた。
「もぅ良い、話にならん。契約は取り消させて貰う!」
怒髪天衝を再現したかの様な表情。富豪家の怒りはおさまりそうにない。
杖を振り翳してスマイルを睨み、大声を張り上げた。
最初から儂はこんな男、信用ならんと思っていたんだ。
それをあの娘がどうしても、と言うから・・・
大方、容姿で持て囃されているだけで
其れに見合った実力なぞ持ち合わせていないのだろう!
「……っちょ、…待ってください!」
「! アッシュく…」
「スマイルはそんな人じゃねえ!
なんにも知らねぇくせに、勝手なこと言ぅッ… ……言わないでほしいっス!!」
言葉が勝手に、口を突いて出てきた。
確かにスマイルが何を考えているかなんて、俺にだって良く分からない。
もしかしたら本当に今回、曲を作らなかったのかもしれない。
でも、渡された少女の資料はいつだって持ち歩いていた。
それに、普段スマイルが音楽に向き合う姿勢を考えると
一生懸命に曲を作っているスマイルの姿しか、俺には想像できなかったから。
暫し、静寂が部屋を包む。
その静寂を破ったのは、ユーリの足音。
コツ・・・
コツ・・・
バシッ
「痛ぁ。ユーリ、何すんのさ~」
と、間の抜けたスマイルの声だった。
「・・・誕生歌、っスか?」
「そう。お偉いさんからのご依頼でネー」
そう言ってスマイルは、ギターの弦を弾いた。
+++僕達のハッピーソング+++
大盛況で幕を閉じた、新曲発表ライブツアーから数週間。
スマイルはある大富豪から、孫娘の誕生日を祝う曲を作るように依頼された。
何でもその孫娘はDeuilの―――特にスマイルの大ファンなのだそうだ。
「で、そのお嬢さんの誕生日はいつなんです?」
「1ヵ月後。15歳になるんだって」
結構きついスケジュールだよネー、1ヶ月って。
ギターを置いてからソファに寝そべり、鞄の中を弄る。
勿論スマイルもDeuilの一員として、日々の活動に追われている。
その中から時間を捻出して新たな曲を作るのに、1ヶ月という期間は確かに短い。
「そんで、作曲の参考に・・・って、御丁寧にこーんな分厚い資料までくれた」
数センチはあろうかという紙の束には、来月の主役である少女の生い立ちや
趣味、嗜好について詳細に記されていた。読破するだけで骨が折れそう。
「たかだか生誕15周年でこんな厚みだよ?
ボク達の資料をつくったら、一体どんな量になるんだって話」
少し考えて、思いついたことをそのまま口に出してみる。
「・・・多分ユーリとスマイルの分だけで、このリビングは紙で埋まるっス」
そりゃ言えてる。
スマイルは少し笑って、ソファから起き上がり窓の方を眺める。
心なしか、いつもより眼は笑っていない。
「急に呼び出されて、まさか『おい、儂の孫娘の誕生歌を作れ』とはネェ・・・
もうちょっと、ものの頼み方があるでしょうに」
「まぁ、今までに同じような経験はありましたけど。ちょっと今回は凄いっスね」
「主役のお嬢さんが悪いわけではないけど、あの爺様はいただけないよ。
あーあ、どうも気が乗らない。投げ出しちゃおうかなー・・」
スマイルが顔を下にして笑い出したら要注意。
何かを企んでいる危険が8割以上あるからだ。
俺は急いでスマイルを諭した。
「でももぅ引き受けたんスよね?だったら出来るだけの努力はしないと駄目っスよ」
「・・・ヒヒッ、分かってますって。ところでアッシュ、今日の晩ご飯は何?」
「あぁ、今日はシーフード・・・」
「『・・・のたっぷり入ったカレーっスよ、スマイル』だって?ワァ、それは嬉しい」
「そんなこと一言も言ってねぇ!捏造禁止!」
すぐにスマイルがいつもの調子に戻ったので、俺は安心した。
何だかんだ文句を言いつつも、彼は常に自分達の期待以上の作品を作り上げる。
今回もきっとそうなるだろうと、信じて疑わなかった。
スマイルに対して、それだけの信頼と尊敬の意を持っていたのだ。
+++
それから1ヶ月後、少女の誕生日前日に俺達は依頼主の館を訪れた。
館のあちこちには良く手入れがされた調度品の数々。
趣味はどうであれ、数はユーリの城とよい勝負だ。
案内された部屋には、老人が背を向けて立っていた。恐らく彼が今回の依頼主だろう。
「儂も暇ではない、手短にいこう。孫娘の為に作った曲を聴かせてくれ」
スマイルが一体どんな曲を作ったのか、俺もまだ知らない。
何回か尋ねてみたが、『発表当日までのお楽しみ』と誤魔化され続けたのだ。
彼は1歩前に進み、いつもと変わらない調子で依頼主に告げた。
「いいえ、まだ御聞かせすることは出来ません」
何だって?
その言葉に、一瞬思考が停止した。
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始めにも記していますが、この話は「うさっぷち」の管理人、うさこ様の日記(09,4,18の記事)にて書かれた
設定を元に創作させていただきました。この場を借りて、許可を下さったうさこ様に心よりお礼申し上げます。
素敵設定を活かしきれずごめんなさい…!こんなへっぽこ小説ですが、まだ続きます。
※始めに(必ずお読み下さい)
この話は「うさっぷち」(http://u-b.pupu.jp/usa/)の管理人、
うさこ様の日記(09,4,18の記事)にて
創作させていただいた小説です。
以上のことを踏まえた上でお読み下さい。
小説作成の許可を下さったうさこ様、本当にありがとうございました。