リビングに下りてきたっスね。
気配をいち早く感じ取ったアッシュは新聞を掴んで歩き出した。
+++貴方のままで+++
「お早うっス、ユーリ!」
「・・・あぁ、お早う」
新聞を受け取った城の主はまだ夢と現の狭間を彷徨っている。
「今日の朝食はどうします?何かリクエストありますか」
「何でもよい・・・出来たら呼んでくれ」
そういってユーリはソファに座り、新聞を読み始めた。
さて、どうしようか。
狼男は迷っていた。
新聞を読んでいる吸血鬼の言葉――「何でも良い」を鵜呑みにしてはいけない。
アッシュはそのことを重々承知していた。
ユーリはリクエストを一々口にするのが面倒で話さないが、
彼の中で食べたいものは既に決まっているのである。
願っていたものと違うものが運ばれて来た時に見せるユーリの不機嫌さは身に沁みている。
そしてアッシュはユーリを不機嫌にさせる確立の方が断トツに高かった。
そう、“ある時”を除いては。
(昨日は洋食だったし…今日は和食にするっスかね)
「あ~ダメダメ、今朝のユーリ、アレは洋食が食べたいって顔だよ」
「…本当っスか?スマイル」
「本当も本当。大マジさ。ついでにいうとトーストじゃなくスコーンね。
あと紅茶はいつもより甘くしておいた方が良いよ」
スマイルの助言に従って用意をした朝食は必ず、ユーリを満足させるのだ。
今朝も多分に漏れずそうだった様で
「作詞で集中し続けていたからか、少し甘いものが欲しかったところだ」と
ユーリは機嫌よく自室へ戻った。
+++
(どうしてスマイルはユーリの考えてることが分かるんスかねぇ…)
朝食後の皿洗いをしながら、アッシュは今朝の出来事を回想していた。
低血圧のユーリは機嫌が悪い上に殆ど喋らない。
アッシュはそんな時、ユーリが何を望んでいるのか全く読めずにいる。
今朝のようにスマイルがユーリの意見を素早く汲み取ってアッシュに伝え、
ユーリの機嫌を損ねないように助けられたことは数知れない。
慣れない考えごとをしていた所為か、アッシュは背後からの気配に全く気付かなかった。
「…今君、どうしてスマイルはユーリの考えてることが分かるんだろうって思ってたデショ」
「!?な、なんでそれが?」
つるり。
カシャン。
たった今自分が考えていたことが一字一句、ずばりと言い当てられた。
動揺したアッシュは手を滑らせ、洗っていた皿を落としてしまう。
やっぱり君は分かりやすいねぇ
細身の透明人間はククク、と笑い声をあげる。
「簡単なことさ。ボクとユーリはね、似てるんだよ」
「似てる・・・それは、考え方がってことですか?」
うーん、それだとちょっと語弊があるねぇとスマイルが答える
「性格…感性…何と表現するのが1番しっくり来るかな?
何処かそっくりな部分があるんだよ」
まぁ後は単純に付き合いの長さによる経験の蓄積ってのもある
あの人、分かりにくそうで単純な面も多いから
そう言ってスマイルは目を閉じた。
「でも君は――こっち側に来ちゃいけない」
わざわざ闇の性格になることはない。
君は既に光の性格を持っているのだから。
「スマイルのいう こっち側、ってのはよく分かんねぇっスけど・・・
でもどうせなら俺も、スマイルに頼らずユーリの考えが分かるようになりたいっスよ」
そう答えるアッシュの顔は真剣そのもので、スマイルは返答を迷った。
「ま、物事には適材適所があるってことで諦めなよ~
得意なこと、不得意なことがあるから面白いのさ、人生って」
「はぁ・・・それもそうっスよね。もう少し自分でも努力してみるっス」
「そうそうソレでこそアッス君だよ★
まぁこれから先1ヶ月のご飯をカレーにしてくれるっていうなら・・・」
「その交渉には応じないっス」
アッシュのけちー
くるりと背を向け、皿洗いに戻ったアッシュから離れて、
スマイルは自室へ向かう廊下を歩いていた。
「ボクとしたことが危ない危ない。うっかり口を滑らすところだった」
彼は本当に素直な性格で、ついこちらの本心を打ち明けたくなってしまう。
「君は君のままで良いのさ。その、眩しいほどの光の性格でねぇ」
(ちょっと照れくさいから面と向かっては言えないけれど
光がなくちゃボク達、闇は存在できないんだから、ネ?)
Fin.
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アッシュの考えや行動に2人は青臭さを感じる一方、自分には出来ない言動に少し羨んでいるのではないでしょうか。
今更自分の性格を変えるつもりはないでしょうが、少しだけ、アッシュの光の性格に眩しさを覚えるのです。
やっぱり、3人揃ってこそのDeuilなのですね。
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