走れ。
走れ。
嫌なことを忘れるにはそれが1番。
体中が疲れて、膝が笑い出すまで全速力で走って。
そしたら、ちょっとだけ顔を空へ向けてみて。
ね?何だか気持ちが軽くならない?
君も1度、試してみたら?
-ダッシュ!!-
「はぁ・・・・」
「・・・スギ、もぅそれで溜息今日で19回目ー
いい加減に止めとかないと本気で幸せ逃げるよ?」
「んな事言われてもさぁ・・・」
僕とレオは閑静な住宅街を歩いていた。
今日は花の日曜日。お天気は憎たらしいくらいの晴れ。
そう、お天気は晴れなんだけど・・・
僕の心はどんよりどろどろのぐーらぐら。
レオはそんな僕を見て彼なりの励ましをしてくれたんだけど
(というか今こうして散歩に出ているのもレオの提案でなんだけど)
それも今の僕の前ではほとんど効果はなかった。
いつもなら綺麗だと思うんだろう花壇の草花も
後を付けて行きたくなるんだろうブロック塀の上を歩くノラ猫も
写真に納めたくなるんだろう澄み渡った青空も
みんなみんな、今はくすんで映ってしまう。
「もー、スギ?本当、ここら辺でくよくよするの止めときなって。
過ぎちゃった事は仕方が無いじゃんか。
スギにそんな風に落ち込まれるとコッチまで調子が狂っちゃう」
「・・・だってさぁ・・・。
ここ最近、本当嫌な事続きだったんだよ・・・」
そう!
財布は無くすわ、
学校に遅刻はするわ、
犬に追いかけられて服を汚されるわ、
作詞・作曲し終わった紙を風に持っていかれるわ・・・!
あぁ、やだやだ。まーた思い出してきちゃった・・・
何かもう、当分立ち直れそうにも無いよ。レオには悪いけど。
「はぁ・・・・」
僕が本日20回目の溜息をついたその時だ。
「あー、ったくもぅ!!いくぞ!スギ、捕まらないように走れよ!」
――はぃ?レオ、急に何言ってんの?捕まる?
僕の頭の思考回路が理解しきれていない間にもレオは走り出していた。
そして、レオが走り過ぎた家からは決まってあの特有の電子音が。
ピンポン
ピンポン
ピンポン
ピンポーン・・・
え?
えぇ?
コレってもしや俗に言う
「ピンポンダッシュ」って奴ですか!?
「はーい、どなた・・・」
やばっ、玄関が開いちゃう!
で、でもどうすれば良いんだ?
「スギー!何してるんだよ!急げ!こっちだ」
遠くの方でレオの声が聞こえてきて、ようやく僕は我に返った。
それとほぼ同時に、足が勝手に前へと動き出す。
後ろで、誰かの家のドア達が次々と開く音が聞こえた。
でも、今は後ろを振り向くなんて事は出来ない。
走れ。
走れ。
只、それだけが頭に浮かぶ言葉だった。
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