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花しるべ

「桜御膳」内のFiction別館サイト。取り扱いはポップンミュージック(非公式)が主。 初めての方は〔はじめに〕をお読み下さい。  
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真実へのカウントダウン・3

――懐かしい。

家の中はボクが住んでいた頃と変わっていなかった。

家具の配置も、本棚の中身も、食器の置き場所も。

 

 

 

 

 

ボクが壁に描いた落描きでさえ、あの頃のまま。

全て等しく、空白の年月があったことを示す寂れを帯びている以外は。

 

 

 

 

 

 

 

 

+++真実へのカウントダウン・3+++

 

 

 

 

 

 

 

 

「すご・・・全然、変わってない」

 

 

あの日から殆ど成長していないため、僕の目線はあの頃と変わらない。

眼に映るものは当時と同じなのに、全てのものは変色して色褪せている。

それが反対に悲しく、ボクを現実に戻すには十分だった。

 

 

「変わってない・・・けど、ソレは見た目だけだ。

あの日があった事実は、消えてはくれない。無かったことにはならないんだね」

 

 

 

一歩前へ歩くと、木の床がみしりと軋んだ。

 

 

 

思い出の品に触れたくて、一歩、また一歩と進む。

家を出たあの頃は、何に触れることも出来なかったから。

 

 

 

 

何も変わっていないと思っていたが、1つだけあの日にはなかったものを見つけた。

リビングのテーブルの上に、年月が経ったためにかなり変色してしまった封筒。

インクも変色して擦れてきてはいるが、ママの字だと直ぐに分かった。

 

 

 

 

 

 

「手紙・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Dear our son,Smile ――「愛する私達の息子、スマイル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛する息子、スマイルへ

 

 

 

 

貴方がこの手紙を読んでいる頃には

私達はもう神に召されていることでしょう。

そもそもこの手紙が無事に読まれるのかどうかも分かりませんが…

私達はいつかきっと貴方がこの家に戻ってくると信じて、この手紙を書きます。

 

 

 

さて、あの日の夜のことを覚えているでしょうか?

私達が貴方に「留守番」を頼んで、この家を出た夜のことです。

正直、姿が変わった貴方と接するのが怖かった。

如何したら良いのか分からなかった。

だから私達は、無理矢理な理由を付けて貴方を連れて行かなかった。

…いえ、置き去りにしてしまった、と言った方が正しいですね。

今思うと、なんて愚かで取り返しの付かないことをしたのかと思います。

 

 

 

家を出て日数を重ねる内、私達にどんどん後悔の思いが込上げてきました。

何故貴方を連れて出て行かなかったのか…

どんな姿であってもあの子は私達の愛する息子に変わりないのに!

私達はあの子の外見だけを愛していたのか?いや違う。

私達はあの子の、スマイルの全てを愛していたのだ!

 

 

 

其の事にようやく気付いた私達は急いで家に戻りました。

しかし、貴方の姿はもう無かった…

だから私達は、この家で貴方の帰りを待つことにしました。

貴方がいつ、この家に戻ってきてもすぐに抱きしめられるように。

 

 

 

許されようとしてこのような手紙を書いたのではありません。

到底許されることもない事を私達はしてしまったのだから…

ただ、貴方には私達の本当の気持ちを知って貰いたかった。

私達は今でも、貴方のことを世界で誰よりも愛していると。

貴方は今でも、私達のかけがえの無い大切な息子だと。

 

 

 

本当に本当に、いつまでも愛しています。

そしてまたいつの日かまた貴方に会えることを楽しみにしています。

 

 

 

 

 

 

 

パパとママより 永遠の愛をこめて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハ、ハ・・・信じられる?」

目元からは水分が止め処なく流れ、頬を伝った。

 

パパとママはボクを置いて逃げた

ずっとそう考えていたのに

そう考えることによって、2人に責任を転嫁していたのに

そう思い込むことにして、自分の正当化を保っていたのに

 

パパとママはちゃんと約束を護っていた

約束を護らなかったのは、ボクのほうだ

 

 

 

「ごめんね・・・本当にごめんね・・・」

 

 

 

 

声を張り上げて泣いた。

 

 

 

+++

 

 

 

数多の星が光る時刻、ボク達は再び墓地にある、両親の墓の前にいた。

 

「・・・良いのか?本当に」

「うん。今は此処に来れただけで満足だよ。

怖くて今迄来ることが出来なかったから、ユーリに感謝しなくちゃね。

まだ少し頭と心の整理が追いつかないけれど・・・

 

でもいつか、此の姿で生きていくことについてボクの中で納得のいく答えが出せたら

その時はきっと、2人の結婚記念日にお花を持って来ることにする。

それまでは、これで我慢してもらおうかな」

 

 

 

花束に放った火は煙を上げながら燃える。

この煙は天国にまで届いているだろうか。

 

 

 

 

そして、ボクは静かに歌い始めた。

家族皆でよく歌った、大好きな曲を。

 

 

 

 

 

 

 

 

パパ ママ

待っていてくれてありがとう。

 

 

来るのが遅くなってごめんなさい。

 

 

でももぅ、大丈夫。

ボクはもぅ、大丈夫だから。

 

 

 

 

 

 

 

あの街まで 届く風ならば

ひとつだけ 確かに伝えて

強がりは 今でもそのまま

変わらずに 暮らしているよと

変わらずに 暮らしていくよと

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

長かった・・・考えるのが苦しくて、幾度か諦めそうになりましたが、ようやく形にすることが出来ました。

両親の手紙の文章なんかは私が高校生のときに書いたものです。構想はあの頃からずっと変わっていません。

どんな作品でも、考えを形にするという作業は辛く苦しいものですね。思い入れがあれば特に悩みも多いです。

それでもいつかきっとこのシリーズ、完成させたいなと思います。例え自己満足でも!

 

透明人間となった自分、2人の子どもである自分。どちらの自分も受け入れ、愛することが出来るようになったその時

両親の結婚記念日に花束を贈ろうというスマイルの心情が伝わりましたでしょうか・・・

今はまだ自分のことが許せなくて、堂々と祝うことが出来ないんです。酷い罪悪感を抱えているので。

 

それでも、長年持っていた両親への誤解がとけた彼はこれからきっと、大きく成長することでしょう。

私もそんなスマイルの成長をちょっとでも上手く表現できるように頑張ります。

 

最後の5行はパーキッツさんの「Movi’n out」の歌詞を一部引用させていただきました。

私のスマイル長編シリーズ、イメージは正にこの曲なのです。


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