「ねぇユーリ、チェスしよう!」
スマイルが楽しそうに、チェス盤を持ってやって来た。
+++勝てる喜び・負ける幸せ+++
「…スマイル、それを一体何処から見つけた?」
「えーと、2階の白い扉のお部屋。洋服ダンスの上にあったよ」
2階の白い扉の部屋――御爺様の部屋か。
私が返事を返さないでいると、段々とスマイルの顔が曇ってきた。
「あ…勝手に入ったらダメなお部屋だった?ごめんなさい」
「いや、別に構わない。それよりもお前、チェスは出来るのか」
「出来るよー。パパにちゃんと教わったもん!」
「そうか…私も、御爺様とよく遊んだものだ」
このチェス盤を見るのはどれ位振りだろうか。
駒の1つ1つを確かめるように眺めていく
ポーン、ルーク、ビショップ…大丈夫、ちゃんと憶えている様だ。
「たまには悪くないな。ではやってみるか」
「わーい、やったー!」
――何もそこまで喜ばなくても・・・大袈裟だな。
うれしそうにはしゃぐスマイルを見て、
ふと昔の自分の振る舞いと酷似していることに気付く。
御爺様もこんな気持ちだったのかと想像すると、少し笑った。
+++
「…これで、王手詰みだ」
「むー、また負けたぁ。もう1回やろ!勝つまで止めない!」
「今日はもぅ止めておけ…今何時だか分かって言っているのか?」
「へ? あー!もぅ7時!ギャンブラー始まっちゃう!!」
じゃあまた明日勝負だからね、と言い残してスマイルは走っていった。
「…あぁ。また明日に」
チェスを長らくしていなかったのは飽きたのではなく相手がいなかったから。
対戦相手がいる生活も悪くないものだな
チェス盤と駒を片付けながら
そんなことをふと思った。
私達はそれから毎日チェスをした。
いつもは飽きっぽいスマイルが、これに関しては妥協しなかったのだ
私とスマイルとの対戦記録は、私の435勝218引分けで止まっている。
もし私が今奴と対戦したらどうなるだろうか?
それは未だに分からない。
Fin.
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過去の共同生活の1シーン。何故対戦が止まったかはまた別のお話で。
御爺様とか勝手に出しちゃって大丈夫だったでしょうか・・(ガタタ)
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