「ユーリーッ、どこーー!?」
あぁ、また今日も始まった。
+++主の苦悩+++
「全く…何度も言っているだろう。城の中を勝手に歩くなと」
「だってこのお城広すぎるんだもん!中庭に出るだけで大移動になっちゃう。
しかも『ボクの部屋はあの赤色のお花が咲いてる花壇の真上!』とか目印付けてても
時間が経つと赤色のお花じゃなくなってることもあるしさ」
草花は自らの姿形を自在に変え(紅薔薇が翌日には白百合になることもある)
城内部の部屋割りも様々に変化する(昨日はなかった場所に階段が出現する時もある)
私は必要最低限の場所だけ使用していたので支障も無かったのだが
散策好きなスマイルにはかなりの死活問題になっている様だった。
「以前よくしていた壁の通り抜けは、出来ないのか。
此処に連れてきたばかりの頃はそれで縦横無尽によく動き回っていたが」
「うーん、ダメ。今じゃ殆ど出来なくなっちゃったみたい。かなり神経集中しないと…」
そう言ってスマイルは暗い表情になったが、そのこと自体はそう悲観するものではない。
透明人間が生物に触れられるのは
『生物としての存在を自身に認めることが出来ている』からだ。
此迄のスマイルは、自分の存在に気付くものが居ない為に
自分で自分の存在を否定し続けていた。
無機物の通り抜けが出来なくなってきたということは
少しずつ自己の存在を認識出来てきたということだろう。
しかし―――
「何か解決策は無いものかな。こう毎日大声で呼ばれては敵わん」
「あ、先に言っておくけど、動き回るの禁止とかは止めてね」
頭の回転が速い奴だ。
「それが嫌なら早く解決策を見つけることだ。こちらの身にもなってみろ」
ボクの方の身にもなって欲しいなぁ、と私に聞こえる様に言いながら
妙案を探しあぐねている様子だ。
そのまま数分が経っただろうか。ふとスマイルが顔を向けた。
「そう言えばさ、何でユーリはお城の中で迷わないの?
何かを目印にしている風もないのに」
「感覚、だな。長年同じ家に住んでいると暗闇の中でも間取りが浮かんで
迷わず目的地へ行けるだろう。あれと同じだ。
「ふーん・・・」
暗闇・・・歩数・・・目的地・・・
ぶつぶつと幾つかの単語を呟きながら部屋の中をくるくると回る。
ぱっとスマイルの表情が明るくなり、立ち止まって叫んだ。
「そうだ!何で今まで気付かなかったんだろう」
+++
数日後。スマイルが私を呼ぶ回数はめっきり減った。
奴には目的地に正確に辿り着く力が元々備わっていた。
その所為であの日私は、スマイルと会うことになったのだから。
「まさかあの頃の一人遊びが役に立つとはね~」
本人は複雑そうな表情だが。
私の城の近くを通る時には
耳を澄ませてみるとよいだろう。
「イチ、ニィ、サン・・」
ほら、今日もまた、あの声が。
Fin.
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やっと終わった・・。にしては大した話じゃなくて申し訳ない。スマイルは目標物までを目測して、
この一人遊びは「can you notice me?」で書かれています。まだの方は是非ご一読を。
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