But-ter-f*ly(ユーリ・スマイル)

それは、儚い命の叫びか。

愚かな者達への警鐘か。

 

 

 

＋＋＋But-ter-f*ly＋＋＋

 

 

日曜の昼下がり。天気は曇り。

買い物帰りにスマイルが

 

 

「ちょっと寄り道していこう」

 

 

そう言って、ふらりと脇道へ入っていった。

奴がそんなことを言い出すのは別段変わった事ではない。

夕食まで時間はあったし、付き合うことにした。

 

 

 

裏道を進むと寂れた教会が見える。

今は誰も使用していない。

というより、この存在を知るものがいないのだろう。

草木が生い茂り、壁は無残にも朽ち果てている。

しかしここの薔薇園はなかなか見事であり

手入れ主が不在の中、見事な花を咲かせていた。

 

 

 

 

「ねぇユーリ、アレ見て」

 

 

 

スマイルが指した指先には、教会の天井が見えた。

丸天井にはステンドガラスが嵌め込まれており

柔らかな光を創り出している。

 

 

 

 

「･･･何か、変わったものでもあるか？

特に昔と大差ない風景に思えるが」

「違うよ。ボクが見て欲しいのはガラスじゃない。

その傍を飛び回っている蝶さ」

 

 

もう一度見ると確かに、硝子の周辺を1匹の蝶が飛んでいた。

破れた壁の何処かから入ったのだろう。

光に攣られては天井に近づき、硝子にこつん、とぶつかる。

何度も何度も繰り返しながら飛び回るその姿は

出口を求めて彷徨う迷い人のようで。

 

 

「･･･本当に、愚かだネェ」

「･･･それは硝子に気付かずにいる蝶のことか。

それとも、蝶を閉じ込める物体を創り出した者のことか」

「さぁ、どっちかな？どっちもかな？」

 

 

私から視線を逸らして

少し遠い目で何かを思い起こす様子で

含みのある笑みを浮かべて

それでも言葉は紡ぎ出される。

 

「誰が愚かか、だなんて誰にも決められないよ。

この蝶だって、ある人から見れば愚かな行動をとっている。

出口はそこじゃない。

別の場所からでないと外には出られないのに、ってね。

でも、蝶自身がそのことに気づいていなければ

蝶は別に愚かじゃないし、不幸でもないんだ」

 

大切なことは自分を信じ続けることさ

例えそれがどんなに苦しく、長い行程でもね

 

私の目の前の透明人間は

それだけ言うと悲しそうに蝶を見つめ

笑いかける仕草をした。

 

 

 

「･･･だったら、お前が蝶を外に出してやればよいだろう」

「えー、まっさかー。ボクそこまで偽善者じゃないし？」

「全く･･･正しい道を知っておきながらそれを示さない。お前らしいな。

そのくせ自分には正しい道を示唆して欲しいのだろう」

 

 

 

あ、ばれた？

当たり前だ。一体何年の付き合いだと思っている。

先に言っておくが、正しい道は自分で見つけろ。

お前に一々、正の方向を教えていたら1日が終わってしまう。

･･･まぁ、余に誤った方向へ行きそうな場合は示唆してやらんでもないが。

 

 

「ヒヒッ、ユーリは優しいねぇ」

「戯け。もぅ日も暮れる。城に戻るぞ」

「はーい･･･今日の晩御飯は何だろうねー。

カレーだといいなぁ。カレーがいいなぁ」

 

 

ユーリの背中を追いながら、聞こえない様に言葉は続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

もぅ多分、“あの日”以上に間違った行いはしないと思うけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大切なことは自分を信じ続けること

例えそれがどんなに苦しく、長い行程でも

大切なことは自分を偽り続けること

例えそれがどんなに悲しく、辛い行程でも

大切なことは自分を守り続けること

例えそれがどんなに寂しく、暗い行程でも

 

 

 

 

 

日は傾きを増し、やがて暮れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Fin.

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全然明るくありません。ある一部分だけが書きたくて無理やり終わらせた感満載です。

あの日、とはスマイルが透明人間へ変わった日。彼は今でも後悔しているのです。